第2章 料理教室を始めたきっかけと、初めての生徒さん
今でもはっきり覚えています。初めて料理教室に来てくれた生徒さんのことを。
淡路島で暮らし始めてしばらくした頃、
私は「料理教室を始める」と決意しました。
その理由には、少し過去の話があります。
横浜で働いていた頃、私は保険会社の事務をしていました。
けれど、事務作業はどうしても苦手で、
毎日のように小さなミスをしては落ち込んでいました。
自信が持てず、息をするだけで精一杯だった時期もあります。
そんな私にとって、週末だけは特別でした。
友達を家に招いて料理を作る時間だけは、
心の奥がふっと軽くなるような、
自分が“私らしく”いられる瞬間だったのです。
「また来たい」
「美希の料理が好き」
その言葉のひとつひとつが胸に残り、
“いつか料理で人を喜ばせたい”
そんな夢の芽が静かに育ち始めていました。
そして、自宅で料理教室がしたい、そう思うようになってきました。
お友達にお願いして、料理教室に生徒さん役で来てもらい、週末に自宅でレッスンを始めました。
けれど横浜では、
料理を仕事にする勇気は出ませんでした。
そんな時に出会ったのが、淡路島です。
移り住んだ当日からなぜか心が軽くなり、
海と風の匂いに包まれて、
「ここなら、始められるかもしれない」
そんな小さな希望が胸に灯りました。
淡路島で料理教室をする、と決めたものの、
最初の頃は不安ばかりでした。
「誰も来なかったらどうしよう」
「私なんかが教えていいのかな」
でも、やってみなければ何も始まらない。
そう思い直して、まずは練習を始めました。
すると、淡路島でできた新しい友達が
「生徒さん役になって練習協力するよ!」と手を挙げてくれました。
人の優しさに触れながら、
テーブルの配置を考えたり、レシピを磨いたりしているうちに、
少しずつ「形になっていく」実感が生まれてきました。
それでも、心のどこかにはずっと不安がありました。
正直、初めてのお客さんが来るかどうかも分からない。
でも――
やってみなければ分からない。
その言葉だけを支えに、準備を続けました。
そんなある日、携帯が鳴りました。
見知らぬ番号からの電話。
「料理教室の予約をお願いしたくて…
2人で伺ってもいいですか?」
一瞬、胸がぎゅっと熱くなりました。
“初めての予約だ。”
電話を切ったあと、しばらく動けませんでした。
嬉しくて、信じられなくて、
心の奥がふわっと光に包まれるようでした。
迎えた初レッスンの日。
2人の生徒さんは、テーブルを見るなり目を輝かせて、
「わぁ…とっても素敵ですね」
「本当に来て良かったです」
「来月の予約も取れますか?」
そう言ってくれました。
その言葉は、まるで宝物みたいに心に残っています。
それだけではなく、
そのお二人はそこから 毎月欠かさず 来てくれました。
月に一度、
私の作る空間で、
私の料理を楽しみにしてくれる人がいる。
その喜びは、
私の仕事の原点であり、
今でも思い出すたびに胸が温かくなる大切な記憶です。
“私の好きが、誰かの幸せにつながっている。”
あの日感じた確信が、
この先のカフェや美容の道へ進む勇気に
ずっとなり続けています。
第3章 予告
料理教室を始めてから、
私の毎日は少しずつ形を持ちはじめました。
誰かに喜んでもらえること。
自分の「好き」が、誰かの時間を温かくすること。
その確かな手応えを感じながらも、
現実の暮らしは待ってはくれませんでした。
この頃から、
私は「続けること」と「生きていくこと」の間で
少しずつ悩むようになります。
次章では、
料理教室の幸せを胸に抱えたまま、
私が新しい一歩を踏み出すことになった出来事について
お話しします。
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